本の言葉 ~私の読書ノート~

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『美しい星』 三島由紀夫

   

地球上のすべての女を不妊にすること。急ぐことはない。そうすれば百年以内に人類はまちがいなく滅びる。……栗田の目に、生殖の環を絶たれた人間どもの清澄な姿が浮かんできた。未来に対する幻影、くりかえしや再生に対する幻影を完全に打ち砕かれて、人間が自分の存在の芸術作品のような一回性に自足すること。そのとき人間どもは、憧憬や渇望を離れ、美しい終曲になり、つまりはよほど我慢できる存在になることだろう。

大喜利は三島由紀夫の「鰯売恋曳網(いわしうりこいひきのあみ)」という新作だったが、助教授がこんな小説書きの新作物なんか見るに及ばないという意見を出したので、あとの人たちもこれに従った。

もし人類が滅んだら、私は少なくとも、その五つの美点をうまく纏めて、一つの墓碑銘を書かずにはいられないだろう。この墓碑銘には、人類の今までにやったことが必要かつ十分に要約されており、人類の歴史はそれ以上でもそれ以下でもなかったのだ。その碑文の草案は次のようなものだ。

「地球なる一惑星に住める人間なる一種族ここに眠る。

彼らは嘘をつきっぱなしについた。
彼らは吉凶につけて花を飾った。
彼らはよく小鳥を飼った。
彼らは約束の時間にしばしば遅れた。
そして彼らはよく笑った。

ねがわくはとこしなえなる眠りの安らかならんことを」

これを翻訳すれば

彼らはなかなか芸術家であった。
彼らは喜悦と悲嘆に同じ象徴を用いた。
彼らは他の自由を剥奪して、それによって辛うじて自分の自由を相対的に確認した。
彼らは時間を征服しえず、その代りにせめて時間に不忠実であろうと試みた。
そして時には彼らは虚無をしばらく自分の息で吹き飛ばす術を知っていた。








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